「笑わないで」と言われて

アルクールの写真で、女性が歯を見せて笑っているものも、見たことがない。撮影の時、笑ってみたが、「笑わないで」と、言われ続けた。

日本では逆だ、アイドル写真を見るとわかるが、基本的にはみんな判で押したような笑顔。一時期私もモデルを経験したが、笑顔の練習をするように事務所に言われた。自然に、引きつらないで笑えるよう、鏡を見て左右が対称になるようにし、一番「かわいらしく」見える角度を研究するよう言われた。「顎を引き気味に」するのも大切。顎がつきでていると挑戦的に見え、引き気味だと従順に見えるからだ。

クレイジーホース©️Studio Harcourt Paris

男性雑誌のグラビア撮影の時、「女性の写真は〈やられちゃった感〉がでないと、だめなんですよ」と言われた。意味がわからなくて、男性誌を見て研究した。セクシーなグラビアのモデルの子は、上目遣いに下から男を見上げ、ポーズも「定番」が多い。胸を持ち上げて谷間を作って笑ったり、服がはだけていると羞恥の表情で、はにかんでみせたり、哀願するような視線、唇は半開き……。

ヘルムート・ニュートンのヌード作品やアルクールのそれに見られるような、堂々と裸体を晒す女性を見たことがない。海外のヌード写真を意識してとった私のポーズは「萎える」といわれて採用されなかった。結局のところ、女性は「男より弱くて自分よりバカでいてほしい」という男性の願望を満たすのが、日本の男性雑誌の写真の主流なのだろう。アメリカのピンナップに関して言えば、やたらに明るい。女性が性に対して複雑な思いを抱く現実を、あえて見たくないのだと思う。性的虐待やセクハラの訴訟が多い国だからこその現象だと思う。