政府が動いた日

ついに政府は動いた。1980年7月15日、署名式の前々日に正式に条約に署名することを閣議決定した。

7月17日夜の署名式、首席代表の高橋展子は薄紫色のスーツに身を包んで壇上にあがった。署名を終えた高橋展子は、国連事務局側の担当部長、久保田真苗と互いに満面の笑みで握手をした。ニューヨークからかけつけた赤松良子も感無量であった。

その興奮さめやらないなか、第二陣として到着した女性議員団のひとりが、市川から託された手紙を高橋に手渡した。元気のいい達筆で書かれた、走り書きであった。

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高橋展子様

目下婦人会議開催中で、首席代表として定めてお忙しく大変でしょうとお察ししています。

今夜は、「男女差別撤廃条約」の署名式があり、一昨日の閣議で正式に署名参加が決定、一応日本も恥をかかないでよかったと思っています。

どうぞご無理なさらないように。

今日は、選挙後初の国会で鈴木善幸首相が誕生する筈です。外相には伊東総理代理が任命されるだろうといわれています。どうぞお大事に。

七月十七日  国会にて     市川房枝

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