40代で知った衝撃の事実

86歳まで生きた母の最後の十数年には、認知症の症状があった。あのときの母はまだら呆けの状態だったのか、わずかに正常な状態だったのか――。突然、私に向かって「お母さんを恨まないでよ。恨むんならおじいちゃんやおばあちゃんを恨みんさい」と言ったのだ。

この肌はイヤだったけど、それまで私は両親を恨んだことなど一度もなかった。母の激しい言葉に驚く私を睨みつけて、母はさらに言う。

「お父さんとは好きで結婚したわけではないよ。あのころは親の言うとおりに結婚せんといけんかったんよ」

父の実家と母の実家は、両家で婚姻を繰り返してきた。

子どもを産む以上、そういうリスクがあるとわかっていながら、彼らは近親婚をやめなかった。両家で所有する山や土地といった不動産の規模を縮小させないためだ、と母は言った。

はじめて聞く母の話に、40代の私は驚きを隠せなかった。そのころの母は、昨日友人が家に来たというような短期記憶は失われても、遠い過去の長期記憶は維持されていたと思う。やがてそれも失い、最後は自分が産んだ私のことさえ忘れてしまった。

後編につづく


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