老いていく悲しさをきっちり演じたい

2000年、私は青山劇場で『オケピ!』(作、演出・三谷幸喜)の初演を観た。松たか子、布施明、真田広之、白井晃、伊原剛志、山本耕史などの豪華な顔ぶれに惹かれて出かけたが、何とそのステージにあの「カミノ」が、ピアニスト役でピアノの前にいたのだった。

――まさにそれが低迷期を脱する第三の転機だと思うんですよ。たまたま白井晃さん演出の『ファルスタッフ』という芝居に出てる時、三谷さんが観に来てくれて、終演後楽屋に来て、「楽器、何かできますか?」って。「サックスとクラリネットですね」「今度、ミュージシャンたちの芝居をやるので出てください」と。

それをたまたまフジテレビ関係の人が観に来てて、法廷ものの連続ドラマ『HERO』のレギュラーに決まるんですからね。僕は検察事務官の役。

放送が始まり何話目かの時、渋谷のセンター街を歩いてたら女子高生たちが、「あ、あの人!」なんて指さすんです。顔を知られるっていうのはこういうことか、とその時思いましたね。

 

映像の力はすごいと思う。でも贅沢なのは生の演劇だろう。11年、小日向さんは『国民の映画』の熱演、怪演によって、第19回読売演劇大賞最優秀男優賞を受賞した。そして16年、NHK大河ドラマ『真田丸』へと快進撃。

――僕は『国民の映画』まで、賞ってものに無縁でしたからね。続いて『真田丸』。僕は大河ドラマで緒形拳さんの演じた豊臣秀吉が、子どもの頃から大好きで、ずーっとすごいと思っていたんです。

その秀吉役をやらせてもらえるなんて、と感激してたら、三谷さんに、「緒形さんを超える秀吉を」って言われて。

無理だと思いながらも三谷さんの書いた、老いて、ボケていって、死ぬまでの秀吉を、書かれた通りに演じました。あそこまで徹底して老いを描いたものはなかった気がしますね。

役者なんて、脚本次第ですよ。活かされるのもそうでないのも。あの秀吉をやってからは、老いていく悲しさとか、惨めさとか、醜悪さを、きちんと演じてみたくなりましたね。本当に老いたらできませんから、その前にね。(笑)