由井緑郎さん「もともと一人でお店を回せるようなシステムを用意したうえで開店したんですが、今となっては、それが本当に正解だった、と痛感しています」(写真:本社写真部)
減り続ける街の本屋さん。書店調査会社のアルメディアによると、2000年には21,654店あった書店数も、2020年5月の時点で11,024店と約半分に。この数字には売り場のない事務所や雑誌スタンドなども含まれるため、それなりに書籍を販売している店舗に限ると9,000店を切っていると言われます。町から本屋の灯を消さないために、もうできることはないのか――。その方法を探るプログラマーで実業家の清水亮さんと、神保町の共同書店「PASSAGE by ALL REVIEWS」の由井緑郎さんによる対談、その3です。

問われる出版社と編集者の意味

<その2はこちら>

清水 最近、自分は「note」でも記事を書いています。そこから「aiの使いかた」といった話題を配信すれば、ぶっちゃけ、本一冊の印税より多い利益が生まれることもある。それでいて原稿の修正はもちろんのこと、最初は300円で売りだしたものでも、後から内容を加筆しながら「当初のモノより価値が生まれた」と感じたら、値段を1000円にしたり。とにかく利点が多いわけです。その記事も書き直している間に、文字数が8万字くらいに膨らんだりして…。

編集 およそ新書一冊分。

清水 それくらいのボリュームになったら印刷・製本して、このお店で同人誌として売るとか、そんなことを考えてもいいのかもしれないな。あまりやりすぎると、出版社から嫌がられるかもしれないけれど。

由井 確かに「直売」には可能性が多いと思います。

清水 僕は16歳のときから雑誌に連載を持って、物書き的なことをやり始め、出版社との付き合いも始まりました。今目の前にいる中央公論新社の方含めて、たまたま僕は優秀な編集者との付き合いが多かった気がしますが、やはりそうではない人も少なからずいて。2,3人、いや数十人かな…。(笑)

編集 編集者も人ですからね…。

清水 もちろん人となりの問題もあるけど、最近だと、昔の価値観にとらわれたままの編集者との間で問題が起こることが多くて。今の価値観からすると、あきらかに理不尽なことを言う人がいるわけですよ。たとえば、本一冊分の原稿を書き上げたあとになって、実は社内の企画会議を通していなかったと言い出す、とか。

由井 それはひどい。

清水 結局、多くの編集者はまだ「印刷して書店に並べる」という世界観の中にいて、どこかに「俺たちが世の中に出してやってるんだ」って気持ちが残っていたりする。俺たちの存在がなかったらお前の文章なんか埋もれちゃって、誰の目にも留まらないんだよ、って。

編集 …。

清水 しかし、発信者が直接ダイレクトに読者とつながった今、それは過去のもの。読者だって、著者のファンであっても、必ずしも出版社のファンというわけじゃない。もちろん「早川書房のSFが好き」「新書といえば中公」とかはまだあるかもしれないけど、でもそれ以上に、読者はやっぱり作者と作品のファン。

編集 間違いない。

清水 だからこそ「編集者、さらには出版社って何の機能があるんだっけ?」と疑問が生まれ始めている。ただ反面、直接配信できるようになった分、著者側にも編集者的な機能がより求められていると感じていて。特に執筆サポートにAIが入るのが当たり前になれば、その傾向はより進むと思います。

由井 出版社の役割や機能が問われている、というのはこのお店を経営しながらも強く感じますね。