<From pieni>

近所に駄菓子屋があったというしあわせ

4畳ほどの小さなトタン屋根の駄菓子屋さん。

それを『ガラスの先に広がる夢の世界』と表現したIさんに、共感する大人は多いのではないでしょうか。

私(晋吾)もそのひとりで、近所に駄菓子屋がなかったという妻を気の毒に感じたほどです。

駄菓子屋さんは、考えてみると不思議なお店です。

まずお客さんが子どもであること。

子どもが選んで大人がお金を払うおもちゃ屋さんと違い、子どもが選んで子どもがお金を払う店は、ほかに思いつきません。

小さな子どもであっても「お客さん」として扱われる唯一のお店屋さんなのです。

もちろん子どもたちの社交場でもありました。

週末になると、100円玉を握りしめてそこへ向かう。子どものわくわく感が伝わってきます。

Iさんが購入してくださった『みやこ』(上)と『まつば』(下)の角皿(W13.8×D13.8cm)。角皿は小物には加工しにくい大柄タイプの模様も生かしたいと考えて作りはじめた作品です。(撮影:永禮賢(ながれ・さとし)/『想い出の昭和型板ガラス ~消えゆくレトロガラスをめぐる24の物語~』より)

80歳を越えて週末だけ店を開けていたという話も、子どもたちのために、動けるうちは細々とでも続けてくれていたのだろうと想像できます。

何しろ子どもたちの親のことまでよくわかっているお店なのです。

少し重たい型板ガラスの引き戸を開けて、入り口にある駄菓子の空き箱を取ると、そこに自分で計算しながら、お菓子やくじ引きの紙を入れていく。

100円を越えないように、小さな指を折って何度も数える。子どもたちの真剣な顔がありありと浮かびます。