政治家と部下の間で板挟みになる行政リーダー

この北村の指摘は、官僚意識調査をもとに執筆された『現代官僚制の解剖』(有斐閣)で、より詳細な分析が加えられている。

広島大学大学院人間社会科学研究科の小林悠太助教が担当した第八章「何が将来を悲観させるのか―リーダーシップ論からの接近」で、財政健全化志向の強い官僚は自省幹部のヴィジョンに否定的な見解を持ちやすい、として以下のように分析する。

「財務政策が政党間対立軸を構成しない日本政治では、いかなる政権が誕生しても財政赤字の抑制が難しい。かかる状況で行政リーダーたちは、ディレンマ状況に置かれていると考えられる。一方で政治家は、官僚たちが政治的応答性を高め、財政再建を先送りにして政府支出を維持することを求める。しかしこの方針は財政再建化志向の強い官僚の不満を高めるため、行政リーダーは一部の部下の信望を失うリスクを高める。緊縮時代の行政リーダーには、政治家と部下の間で板挟みになる状況で、省庁の舵取りを行う能力が求められているのである」