中野先生いわく「近しい相手への嫌みこそ、隠すくらいがちょうどいい」そうですが――(写真提供:Photo AC)
現代のインターネット社会では、「本音を言うのが正義」、「論破するのが最上」といった雰囲気が形成されてきましたが、場合によっては相手との関係性が壊れてしまいますよね。脳科学者の中野信子先生は、言いたいことを言うけれども、相手を直接傷つけたり、関係性を破壊してしまったりしないコミュニケーション方法を提案しています。その中野先生「近しい相手への嫌みこそ、隠すくらいがちょうどいい」と言いますが――。

「本音を言い合う仲」は本当に最上か

日本の中でも地域によって沈黙や間合い、婉曲(えんきょく)な言い回しを大切にする度合いには差があります。

東京圏は、日本の人口の3分の1が集まる地域で首都圏ではあるのですが、日本の伝統的な言語コミュニケーションを代表する場所かというとそうは言い切れないところがあるかもしれません。

東京の前身であった江戸は、18世紀には日本各地から人が集まる世界最大の都市に成長していきました。

これは、複数の異なるコンテクスト(暗黙の了解事項)を持つ人たちが急速に流入してきた、流動性の高い社会だったということを意味します。

出自がさまざまで、文化的な背景も異なる人々が一つのところに集まるという観点からは、コミュニケーションのあり方としては文化の中心地であった上方(かみがた)の様式と比べてより直接的な、アメリカ型に近いものが選択されたことでしょう。

言わない、という選択がなかなかとりづらい社会的な構造があったと考えられます。

現代のインターネット社会でも、本音を言うのが正義といったような、論破するのが最上といった雰囲気が形成されてきました。

けれども、論破してしまったらその人との関係はそこで終わりになってしまうかもしれない。終わりになってしまったら、論破したそのときは気持ちよくとも、結構損をしてしまうことがあり得る。

そういったことを、私たちはもう1回見直して、論破する前にもうちょっと考えてみる必要があるのではないでしょうか。

はじめから論破する相手として見てしまうのではなく、その人から引き出せるもっといいものがあるかもしれない。そのコミュニケーション方法を学ぶ機会が、現代の私たちには乏しいように思えるのです。