最初から山頂だけを目指していた

親にも告げず、鞄一つで夜行バスに乗って上京。決まっていたのは「クラブ花」の姉妹店「クラブ紅い花」で働くということだけだった。

「これからどうなるのかしら」とワクワクしていたのを覚えています。不安より好奇心のほうが強かったのでしょう。それでいて、どこか冷静で、華やかな夜の銀座で生き延びていくのは簡単なことではないだろうと覚悟もしていました。簡単なことではないからこそ遣り甲斐があるのだと、ふつふつとチャレンジ精神が湧き上がってきたのです。

上京したその日から「紅い花」で働き始めたのですが、その時点で私は3つの目標を掲げていました。1年でナンバーワンホステスになること、3年で有名クラブの雇われママになること、5年で自分のお店を持ちオーナーママになること。しかもお店の同僚スタッフや、お客様の前でも堂々と公言していたのです。なんて無鉄砲で自信家だったのだろうと、思い出せば赤面してしまいますが、あの時はあれでよかったのだと思っています。

目指しているのは山頂なのに、まずは5合目まで、次は8合目までなどと区切っていたら、そのたびに一休みしてしまいがちです。うっかり「第一目標である5合目までたどり着いたのだから良しとしようか」などと自分を甘やかしてしまうと、そこまでで止まってしまいます。堂々と「私が目指しているのは5合目ではない、山頂です」と宣言していたことが有言実行を果たす決意表明になりました。言ったからには必ず成し遂げると誓いを立てる、そのための努力を惜しまない、何があってもくじけないと自分に圧をかけて追い込んでいく。この無謀な計画性のお陰で私は夢を手繰り寄せたという気がするのです。

とにかく飛び込んだ夜の銀座の世界は、想像以上に刺激的で、私は自分の居場所を見つけたとばかりに意気揚々としていました。ところが1週間ほど経った頃、心配しているだろう親に現状を知らせたところ、連れ戻されてしまいます。叱られたというより諭されたという感じでしたが、私の意思は頑として変わらず、「紅い花」のスカウトマンが「戻ってきてほしい」と熱心に連絡をくれていたこともあって、再び東京へと向かいました。