森林の未来と南北問題
気候変動の森林に対するインパクトとは別に、グローバルな環境問題へ対応するためにクリーンエネルギーを求めて木材需要が高まり続ける限り、熱帯に限らず、世界中で森林の消失になかなか歯止めはかからないだろう。
現在、先進国を中心に熱帯林を残せという要求は強いが、現実問題として本当に森林を今のまま残せる国がどれほどあるだろうか。
先進国のそうした自然保護を要求する圧力を、途上国は不当な内政介入であるとして反発している。これは、森林資源についての「南北問題」である。
先進国の需要を満たすように森林は利用するが、同時に、その資源は地球環境にとって重要であるから保全的に扱わなければならないと地元での森林利用を制限するのは、あまりにも身勝手なダブルスタンダードであり、途上国から反発されても返す言葉はあるまい。
また、たとえ途上国の中で経済が発展して、自国の森林への利用圧力を軽減できた国が増えたとしても、それは木材のグローバルな獲得競争への参加者が一人増えたに過ぎないとも言える。
※本稿は、『森林に何が起きているのか――気候変動が招く崩壊の連鎖』(中公新書)の一部を再編集したものです。
『森林に何が起きているのか――気候変動が招く崩壊の連鎖』(著:吉川 賢/中公新書)
2019年、オーストラリアで史上最大級の森林火災が発生。5ヵ月間で17万平方キロメートルもの国土が焼失した。近年、温暖化の影響による森林の「異変」が世界中で観測されている。大規模火災が相次ぐのはなぜか。森林破壊がもたらす経済的影響は。豊かな自然を守るため、何をすべきなのか――。本書は、森林生態系のメカニズムから、日本の里山の持続可能な保全策まで、森林科学の知見を第一人者が解説。実効的な気候変動対策を論じる。