人生100年時代、物価の高騰、戦争、災害など暗いニュースが続くなか、老後の「経済的な不安」は誰しも抱えているもの。そんななか、「お金に頼らない生き方」を実践しているのは、朝日新聞社を早期退職後、フリーランサーとして活躍している稲垣えみ子さん。稲垣さんは、夫なし、子なし、冷蔵庫なし、ガス契約なしの「楽しく閉じて行く生活」を模索中です。その稲垣さん「便利なものっていうのは『自分』を見えなくする」そうで――。
「便利なもの」をやめたら家事がラクになった
炊飯器をやめた。電子レンジをやめた。掃除機をやめた。洗濯機をやめた。冷蔵庫をやめた......もちろんいずれも決死の覚悟。
何しろこのどれ一つとしてそれなしの人生なんて経験したこともなく、これなくしてどうやって家事が成り立つのか想像したことすらなかった。
どれほど大変なことが待ち受けているのかと超ビクビクと怯えながらの決断だった。
ところが。いざやってみたら、全くどうってことなかったのだ。
それどころか、どんどん家事がラクになってきたのである。
もちろん混乱した。
そして必死に考えた。これは一体どういうカラクリなのか?
思うに、理由は主に二つある。
一つは、便利なものはまさにその便利さゆえに、シンプルな物事をいつの間にか「オオゴト」にしてしまう特性があるのだ。
どういうことかといいますと、便利なものを手に入れると、確かに「できること」が増える。
ところがこの「できること」がいつの間にか「やらなきゃいけないこと」になり、さらにそれがいつの間にやら「豊かな人生」ってことになって、そこから降りてはいけないというプレッシャーに取って代わるという、もうなんというかものすごく良くできた蟻地獄のような現実の中を私は生きていた。
その事実を、私は便利なものを手放して初めて知ったのだ。