健康管理も仕事もコツコツと

年齢を重ねてくると、同業の方たちとの間で何かと話題になるのがセリフ覚えです。ずいぶん前に淡路恵子さんとお仕事をご一緒したときに、「若い頃は台本をパラパラと見るだけで、そこに出てくる人のセリフが全部頭に入ったけれど、今はその何倍も時間がかかるのよ」とおっしゃっていたことがありました。そのときの私は、きちんと理解できていなかった。

でも、今ならその気持ち、状況がよくわかります。今の私には、台本をパッと読んで一冊まるごと頭に入れるなんてとてもできませんから。読みながら自分の中で台本が描く世界をじっくり組み立てて、頭に収めていく。こまめにメモをとる。昔とは全然違う覚え方ですが、これが、年齢を重ねた自分とうまく折り合いをつけながら仕事をしていくということなのでしょう。

若い頃よりも丁寧に時間をかけてセリフと向き合った結果が、味わい深い演技に繋がればいいのですが……。残念ながら、まだまだその境地には辿りつけていません。この先も、その時々の自分の状況に合わせて工夫を重ねていくしかありませんね。

ただ、こうやってコツコツとこの道を歩いていけるということは、本当にありがたいことだと思います。たくさんの人と一緒に新しい作品をつくり、皆さんに見ていただく。こんな日々が大きな刺激になっているからこそ、今もこうして元気でいられる。これは確かです。

今、シニア演劇がちょっとしたブームだと言われていますが、みなさんにもぜひおすすめしたいなと思っています。台本を覚えるのに脳を使う、セリフを発するのに口や喉を使う、舞台で動き回るから体を動かすなど、健康でいるために必要な要素が凝縮されていますから。

それに、新しいことに挑戦する意識、なにより人から見られることが張り合いになって、生きる活力に繋がるのではないでしょうか。

同世代の知り合いのなかには、毎日脳トレをしているという方もいます。私にとっての脳トレは、やっぱりお仕事。そして、読書でしょうか。本は昔から暇さえあれば、ジャンルを問わず、興味を引かれたものを読んでいます。心を刺激し、自分の世界を広げてくれる読書はずっと続けていきたいですね。

私は今秋、70歳になります。母は57歳、祖母は62歳で亡くなってしまったので、身近なところに70代、80代を生きていく姿を見せてくれるモデルがいませんでした。でも私には、若尾文子さん、岸惠子さん、それから草笛光子さん――と、存在そのものが刺激になる憧れの方がたくさんいます。

すばらしい先輩の背中を見ながら、健康管理も仕事も自分にできることをコツコツ続け、軽やかに70代に突入していきたいなと思っています。