絶対的に公平な販売方法
さて、この「コスモグラフ デイトナ」に関しては、買いたくても買えない「待つ」腕時計であり、「探す」対象となった。これは腕時計の歴史のなかでも珍しいことだ。
普通、腕時計は「選ぶ」ものであり、その前段階で「迷う」のがあたり前だ。そうした熟慮のプロセスを全て超越した。
数十年前から正規の時計店では「いつでもいいから入荷したら売って欲しい」と申し出るものになっていた。何年も待つのがあたり前で、それでも手に入らないのも常識だった。
一方、時計店では、いつ入荷するかわからないモデルをあてにして、ウェイティングリストに名前を記載することが、むしろ不誠実なのではないかと考えていた。
何しろ、何年先になるかもわからない予約を、受けられるはずもない。
そして、ウェイティングの方式を採らず、時計店が始めたのが「入荷したら展示し、販売する」という方法だ。あたり前のことを、あたり前でない腕時計にも適用したのである。
つまりは、いつ現れるかわからない「コスモグラフ デイトナ」が、前触れもなくある日突然、時計店のショーケースにあるのだ。
目を疑うようなサプライズに気づいた幸運な人間だけが、「コスモグラフ デイトナ」を手に入れることができた。誰からも文句の出ない絶対的に公平な方法を、時計店が編み出したのである。