デイトナを求めて探し回る人々

それは「在庫を隠しているのではないか」「特別な顧客にだけ販売しているのではないか」という邪推に対する反駁でもあった。

しかしこの方法が、思わぬ余波を生んだ。いきなり販売するという方法を採る時計店を、「探す」人々が登場したのである。

つまり待っていても買えないロレックスの「デイトナ」を買うために、時計店を探し回るという奇妙な行動様式が誕生した。

たいていの場合、時計ファンは馴染みの時計店と昵懇になり関係が深くなる傾向がある。それを崩し、複数のロレックスの正規販売店を、「デイトナ」を求めて探し回るという行為をする人々が現れたのだ。

これが初期の頃の「デイトナマラソン」といわれていたものである。いまではロレックスのモデルを探す人々の行動を「ロレックスマラソン」というようになっているが、その最初である。

余談になるが、小生はこの「デイトナマラソン」とか「ロレックスマラソン」という言葉が大嫌いで、積極的に使うことはない。

最近ではとくにこのロレックスの品薄のこと(事情)についてテレビ番組でコメントを求められることもあるが、やはりこの言葉を避けている。それを肯定、または許容すると思われたくないからだ。

番組側としては、どうしてもこの「ロレックスマラソン」という言葉をいわせようとする。センセーショナルで面白いからだろう。それでも筆者はできるだけこの言葉を避け、用いるときには否定的な意味で使うようにしている。

※本稿は、『ロレックスが買えない。』(CCCメディアハウス)の一部を再編集したものです。


ロレックスが買えない。』(著:並木浩一/CCCメディアハウス)

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