全てはデイトナから始まった

その象徴的なモデルが「ロレックス オイスター パーペチュアル コスモグラフ デイトナ」である。

ロレックスとレース界の蜜月の象徴ともいえる「コスモグラフ デイトナ」は正真正銘、生粋のレーシング・クロノグラフである。そして同時に、希少なレアモデルの代表としても語られてきた。

『ロレックスが買えない。』(著:並木浩一/CCCメディアハウス)

「コスモグラフ デイトナ」は生産量に対して、購入希望の数の方が大幅に上回っているということが、数十年続いてきたのである。

これについてロレックス社が生産量を絞っている、という悪口をいう人間もいるが、決してそんなことではない。

いまの何倍何十倍と生産を増やしたとしても、市場がヒートアップするだけだろうし、そもそも精密な機械式クロノグラフの生産量を、天井知らずに増やせるわけがない。

結果として、一本の「コスモグラフ デイトナ」に何本もの手が伸びているというのが常態となった。

ロレックスを正規に取り扱う時計店や百貨店のどこでも「『デイトナ』が欲しい」という客に何十年も対応を続け、謝り、断り、また順番待ちを受け付けていなかった店はひとつもないだろう。

買いたい人全てに「コスモグラフ デイトナ」を提供できた時計店は、いまだ存在しないのである。

時計店にとって、これは心苦しいことに違いない。

時計店とは、時計好きのスタッフが、時計好きのお客の要望に応える幸せな場所である。

同じ趣味をもつ者同士のその関係性が、ものがないことで危うくなる。