人々は腕時計を我慢することをやめた
しかし、もっとロマンティックな方向にこの現象を考えることもできた。人々は「腕時計を我慢することをやめた」のである。
つまりは、ロレックスに代表される「憧れの品」を、買おうかどうかをためらうのをやめ、迷わず購入するようになったということだ。
買えるのがいまだけなら、後悔はしたくないのである。
腕時計ファン以外はピンとこないかもしれないが、腕時計はもう、時間を知るためだけのものではなく、人に見せびらかすものでもない。
「時間を知るためだったらスマホで十分」というのは、もはや高級腕時計を買うための口実であり、自分へのいい聞かせなのである。
時間を知るためならスマホで満たせるので、人々は必要のためではない嗜好、趣味、興味、ステイタス、感情、憧憬の表現されたものとして、腕時計を身に着けたいのだ。
ロレックスはその代表であった。
そうした状況で、ロレックスの人気はさらに急沸騰した。購入制限モデルであろうとなかろうと、ロレックスのスポーツモデルが買いづらくなり、とうとう買えない状況になったのである。
購入制限を超えて、さらに深刻化したといってもいい。
この状況にあって、腕時計ファンはいま、ちょっと立ち止まっている。