並木さん「いま腕時計に限らず、いろんな世界で転売ヤーという非常に嫌な人種が横行している」(写真はイメージ。写真提供:Photo AC)
世界中で愛され続け、腕時計の代名詞的な存在の「ロレックス」が、コロナ禍以降、店頭から消えた。そして「ロレックスマラソン」という新たな言葉が誕生した。これは「ロレックス」を求めて探し回る人々の行動のことである。「ロレックス」が消えた背景とは…。国内外の時計界を取材し、高級腕時計の書き手として第一線で活躍している並木浩一さん「全世界的にロレックスは不足していて、そして買えない」と言いますが――。

コロナ禍、ロレックス社の事情

一般的にはあまり知られていないが、ロレックス社(Rolex SA)の株式は100%、創立者の名を冠したハンス・ウイルスドルフ財団が保有している。

株式会社(SA=societe anonyme)の体(てい)をとってはいるものの非上場であり、株主は財団だけである。

すなわち一般的な株式会社のように、株主という名のステークホルダーの顔色を窺う必要がない。責任を負っている相手は顧客と社会、そして従業員なのである。

これは唯一ではないものの、極めて珍しい例だ。

つまりロレックスは、生産を自分でコントロールできるブランドなのである。ロレックス以外の高級ブランドでも、数カ月ファクトリーを閉め、生産を止めてしまった例がある。

それぐらいブランドの確立されたスイスの時計ブランドには、底知れない企業体力がある。

実際のところ、ロレックスがどれくらい生産をしているのかは諸説あり、定かではない。

これは日本でも同様だが、非上場のため有価証券報告書などによる財務状況や先行投資の報告義務がないのである。

ただし新型コロナ禍でも、ロレックスは正常な広報活動を行い、スポーツや文化の後援、慈善事業を止めていない。

生産への翳は、あまり窺うことができない。何か影響があったのか、外からはわからないのである。

一方で、需要が伸びたことは間違いないだろう。

新型コロナ禍のもとで、人々は旅行に出かけるのを控え、車を買い替えるのを先延ばしにした。先行きが見えない株式投資から資産を引き上げもした。多くの可処分所得が行き先を見失うなかで、熱烈に新しい腕時計を求めたのである。

底を打った株式市場が反転したこと、貴金属の価格、とくに金価格が一時は1トロイオンスあたり、2000ドル超えにまで上昇したことと関連づけるのも、間違ってはいないかもしれない。

確かに、高級腕時計は有形の価値をもつ動産として、確実なものにみえた。