宇野千代(昭和26年1月撮影、本社写真部)

 

大正から昭和、平成と3つの時代を生き、98歳の長寿を全うした作家・宇野千代。晩年まで仕事を続け、人生を前向きに歩んだ彼女の姿勢には、人生100年時代を生きる上でのヒントがたくさんあります。いくつもの恋をして、同じ数だけ失恋をしてきた彼女が、それでも一歩を踏み出せ続けた理由とは――。

私の恋は素早く始まり、そして終わる

私は若い人が好きである。若い人の100パーセントに生きている姿が好きなのである。若さとは何か、ひと言で言えば、生きが良いと言うことがその凡てである。

それは制御することの出来ない生きる活力の所為(せい)である。

そうであった。その頃、私は若く、そして貧しかった。食べるために電車賃を節約して歩いた。1枚の着物を工夫して、冬も夏も着た。しかし、私の生きて行く願望は、別のところにあった。

私には未来があった。希望があった。出会いがあった。私にとって、生きることは、行動することなのであった。

いくつもの恋をした。そしてそれと同じ数だけ失恋したのであった。いつの場合も経緯は同じであった。私の恋は、考える隙のないほど素早く始まり、そして終わるのであった。

好きな人が目の前に現われると、私は忽ちにして、その人のとりこになり、前後もなく考えずに行動を開始するのだった。何の逡巡(しゅんじゅん)することがあろう、私はその人の目を真っすぐに見て、「私はあなたが好きです。」と言った。好きだと言われて不愉快に思う人はいなかった。恋は成就した。