まだまだ隠された能力があるはず
年を取ると欲がなくなると言うが、それはほんとうであろうか。私は、この秋に九95歳を迎えるのであるが、この説は、どうも、ほんとうには思えないのである。欲望がなくなるのではない。質が変化するのである。
若い時には、雑多に我と我が身を占めていた欲望が整理されるのである。単純化されるのである。あの、灼(や)けつくような欲望は今はない。激しい渇望も去った。いって見れば、生きが悪くなったのである。
しかし、私は、今のこの自分が好きである。私にとって、今いるこの場所、この時が私の人生なのである。少し、生きは悪くなったが、私には、毎日することがたくさんある。希望が胸の中に湧いて来るのである。私にはまだまだかくされた能力があると、自分なりに思っているのである。その能力を探し発揮していくことが、生きることなのである。
そして、むずかしいことかも知れないが、「おはん」を超える作品を書きたいとまだ思っている。このことに私は一念をかけて、毎日、出来るだけ机に向っているのである。