大学を取り巻く社会状況はこの20年で一変

インタビューで多く聞かれた離職理由は、「組織風土が急激に変わり、耐えられなくなった」というものでした。

「(理事長や学長など)トップが交代した途端、人事評価制度で低い評価を付けられる職員が急増した。理不尽とも思える命令や叱責を受け、うつ状態になった職員も少なくない」
「以前なら教授会などで丁寧に議論していたことも、理事会だけで決定できるようになった。民主的な組織風土が年々、変わってしまっている」
「教育や研究での成果よりも、コストカットや収益確保を優先する組織になってしまった」
「組織の方針に非協力的だという理由で、良心的で優秀な教員が解雇された」
……等々。

こうした変化には、文科省の主導で進む大学ガバナンス改革も大きな影響を与えているものと思われます。

簡潔に言えば、学長や理事長に権限を集中させるさまざまな制度変更のことを指します。

従来なら教授会で議論していた重要事項も理事会だけで決定できるといった制度変更が、国公私立を問わず進んでいます。

最も強い影響を受けているのはおそらく国立大で、全国で教職員と理事会が対立し、互いに訴訟を起こし合うようなケースも生まれています。

大学ガバナンス改革の是非については、ここでは論じません。トップの権限を強化することで機動的に大胆な改革が進められるという一面もあるでしょうし、専横的なトップによって組織のさまざまな良さが破壊されるリスクもあるでしょう。

大学で働くすべての方にとって無視できない改革であるのは間違いありません。実際にその影響で心身を病んだり、休職者・退職者が増えたりする事例も生まれています。

こうした変化は予期せぬタイミングで発生し得ます。酷な書き方になりますが、どうすることもできない大きな力によって、あなたの職場が「壊されて」しまうこともあり得ます。

そのようにさせないための議論や行動が最重要であることはもちろんですが、万が一の際に取れる選択肢を増やしておくことも大切と思います。

大学を取り巻く社会状況はこの20年で一変しました。

職員の仕事やキャリアのあり方も、20年前と同じではなくなってきました。

「大学職員は楽で高給」といった、20年前を前提にしたような話を鵜呑みにしてしまうと辛い思いをするかもしれません。

でも「20年後の大学」で働きたいと思える方なら、職員人生を楽しめるはずです。

※本稿は、『大学職員のリアル-18歳人口激減で「人気職」はどうなる?』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。


大学職員のリアル-18歳人口激減で「人気職」はどうなる?』(著:倉部史記・若林杏樹/中央公論新社)

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