親しみをこめた表現

しかし、そこには悪意や深い批判はないような気がする。

厳密に、キチキチに物事を対処するのではなく、どこか肩の力が抜けた感じもあるからだ。

必ずしもルーズな対応というわけでもなく、不誠実ということでもない。万事につけて、おうようで、些細(ささい)なことにこだわらない人、という印象もある。額にしわを寄せて追求したりしない一種のおおらかさを感じさせるところもある。

「適当な人」というのは批判でもあるが、どこかに親しみをこめた表現ではあるまいか。

ことに身内の者に関してはそうだ。

「うちの父ちゃんたら、ほんとにテキトーな人なんだから」

と、ぼやく口調には、半世紀以上もつれそった配偶者への愛情がこもっていたりする。

『新・地図のない旅 I』(著:五木 寛之/平凡社)