人生100年時代と言われ、人が経験したことのない未来が待つ世界になりました。先が見えない世の中で、90歳を迎えた作家・五木寛之さんが綴るエッセイからは、日常を新しい角度から見るヒントが見つかるかもしれません。厄介ごとが起きて対処法を考えるときに、五木さんが思い出していることとは――。
「適当」の本来の意味
言葉というのは、おもしろいものである。ひとつの表現がいくつもの使われ方をして、私たちの生活を円滑に動かしているのだ。
たとえば「適当」。
辞書を引くと、条件、目的、要求などに「うまく当てはまっている」ことをいうと説明されている。また、その応じ方が「ほどよい」こと、「適切」であることの意味もあるという。
しかし、私たちの日常生活では、ちがう意味で用いられることも少なくない。
「その辺は、まあ、ひとつ適当に」
とか、
「あの野郎、適当なことを言いやがって」
などと、本来の意味とちがう感じで用いられることもしばしばだ。