肩の力を抜いて考える

生きていると、あれこれと厄介なことも少なくない。私もどう対処すべきかと悩むときがしばしばある。

そんなとき、最近ふっと口をついて出てくるのは、「ミッキーマウス? お猿さんよー」という適当な言葉である。

人間、こまかいことにくよくよしなくてもいいのだ。「ミッキーマウスはお猿さんよー」とつぶやくと、ふっと肩の力が抜けてくるのである。

子どもに対してまちがった知識をあたえてはいけない、などと目くじらたてることもないではないか。子どももいつかは自分でまちがいには気づくのだ。そして適当だった母親の返事を、懐かしく思い出すことだろう。

深刻に生きるのも大事だが、適当も悪くないなあ、と思いつつ日々を生きている。

 

※本稿は、『新・地図のない旅 I』(平凡社)の一部を再編集したものです。


新・地図のない旅 I』(著:五木寛之/平凡社)

「地図のない旅」というのは、いわば私の生き方そのものだ。 ……あちこちの街で暮らし、この先もどうなるかわからない。「地図のない旅」は、これからも続くのだろうか。 (「あとがき」より) 90歳を迎えた著者が「人生百年時代」という未知の旅を前に、日々の思いを綴る。 出会う人々との何気ない会話、体とのつきあい方、ふとよみがえる記憶……。 変わり続ける日常を、新たな視点で見つめ直す69のエッセイ。