肩の力を抜いて考える

生きていると、あれこれと厄介なことも少なくない。私もどう対処すべきかと悩むときがしばしばある。

そんなとき、最近ふっと口をついて出てくるのは、「ミッキーマウス? お猿さんよー」という適当な言葉である。

人間、こまかいことにくよくよしなくてもいいのだ。「ミッキーマウスはお猿さんよー」とつぶやくと、ふっと肩の力が抜けてくるのである。

子どもに対してまちがった知識をあたえてはいけない、などと目くじらたてることもないではないか。子どももいつかは自分でまちがいには気づくのだ。そして適当だった母親の返事を、懐かしく思い出すことだろう。

深刻に生きるのも大事だが、適当も悪くないなあ、と思いつつ日々を生きている。

 

※本稿は、『新・地図のない旅 I』(平凡社)の一部を再編集したものです。

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