スマホはワークライフ・バランスの敵

この上司というのが、会計士としては優秀な人らしいが、日常の雑務が苦手で、物を失くしたり、必要な物の保管場所を忘れたり、自分のスケジュールがわからなくなったりして、何かあるたびに部下の彼女に聞いてくるらしいのだ。

「あー、いるよね、そんな人」

仕事は天才的だが、日常の細かいことが驚くほどできない上司のもとで働いた経験があったので、わたしは深く頷いた。彼女はコーヒーをいれながらため息をつく。

「昼間のうちにかかってくるのは勤務時間中だからいいけど……、夜とか早朝にもメッセージがくるのがつらくって。勤務時間外にはさすがに電話はないけど、既読になってるのがわかると返事しないわけにはいかないし」

ああ、確かにいまの時代はそれがつらいなと思う。むかしは「すみませーん、メールをチェックしてませんでした」と言えば済んだことが、いまはスマホにどんどんメッセージが届く。上司をブロックするわけにもいかないだろうし、「一晩中スマホを見てませんでした」は言い訳としてかなり苦しい。

「スマホはワークライフ・バランスの敵だなってつくづく思う」

彼女はそう言って笑っていたが、これは笑って済ませられる問題ではない。人間はコンピューターじゃないので、24時間つながりっぱなしというわけにはいかないからだ。

絵=平松麻