(写真はイメージです 提供:photoAC)
2023年7月16日(日)に東京宝塚劇場での千秋楽を迎えた、宝塚歌劇団雪組公演『Lilac(ライラック)の夢路』。彩風咲奈と夢白あやによる、新トップコンビの大劇場お披露目公演でもあった本作は、19世紀初頭のドイツを舞台に、鉄道事業の発展を夢見て奔走する若者たちを描く。脚本の発端となったという、大阪大学教授・ばん澤歩(ばんは、正式には「方」へんに「鳥」)先生の『鉄道のドイツ史』より、ドイツで鉄道が発展するまでの背景を紹介します。

19世紀ドイツ・鉄道の時代

「長い19世紀」という言葉がある。フランス革命勃発(1789年)にはじまり、第一次世界大戦の勃発(1914年)ないし終結(18年)で幕を閉じる「19世紀」。諸革命を経た市民社会の成立、「産業革命」という語がイメージさせてくれる工業化、「第一次グローバリゼーション」とも呼ばれる欧州を中心に描かれる世界地図の確立、そして欧州大戦(第一次世界大戦)によるその崩壊……までを、1つのまとまった歴史的時間とする見方である。

しかし、ここではカレンダー上の「19世紀」でよい。固定した軌道上を自走する機械車輛と、それに牽引された列車が移動する、という意味での鉄道は19世紀の発明だからだ。

ドイツ語圏の鉄道史は、その建設進捗の程度からまず4局面に分けられる。これは19世紀末から20世紀初頭に活躍した経済学者W ・ゾンバルトが採用した区分で、現在もほぼ受け継がれているもの。ちなみに、「ドイツ語圏」というのは、この19世紀、「ドイツ」には概念の幅と政体の変化が著しいためである。便宜的な呼称と思ってくださるとよい。