樋口「考えようによっては、置き去りにするほうがむごい」

樋口 それだと、お母さんとしては環境が変わらないですからね。でも、考えようによっては、置き去りにするほうがむごいわよ。

上野 それは近所の目があるからです。わたしは住み慣れた家から、まったく見も知らない施設にその年齢で出すほうがむごいと思う。本人に選ばせたらほぼ100パーセント、自分の家にいたいと言うと思いますよ。

『最期はひとり 80歳からの人生のやめどき』(著:上野千鶴子・樋口恵子/マガジンハウス)

樋口 今のところ、年老いた者が出ていくのが主流ですよね。若い世代に、自分たちが出るという発想がないと思う。それに、親を出すほうがお金もかからないし。

上野 103歳で自分の家を出なきゃいけないお母さんが気の毒です。

樋口 それにしても、親になるってことは覚悟がいるわね。100歳で置き去りというのも……。SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)は、誰ひとりとして置き去りにしない社会をというけれど。

上野 追い出されるか、置き去りか二択なら、そりゃあ置き去りのほうがマシ。お年寄りが「家にいたい」と言うのと、「家族と一緒にいたい」と言うのは、別なことだとわたしは確信しています。わたしは圧倒的に年寄りの味方です。