樋口さん「私は完全にオヤジです。オヤジ型老後不適応症ですね」(2021年9月撮影。写真:本社写真部)

 

生きていれば人は老いるもの。気力や体力が衰えていくなかで、何をやめて、何をやめないかの選択に迫られることもありますよね。「人生のやめどき」をテーマに東京大学名誉教授・上野千鶴子さんと東京家政大学名誉教授・樋口恵子さんが対談を行いました。上野さんは75歳、樋口さんは91歳になりました。現在進行形でおふたりが経験している「老い」の形とは。樋口さんいわく「歴史的に見ても私たち世代は食いものに卑しいの」だそうで――。

84歳で調理定年を迎える

樋口 これまで何度か書いていますが、女の人生には「調理定年」があると思うの。私は自宅の建て替えをした84歳のときに大変な貧血になって、その存在を身をもって知りました。

上野 どういうことですか?

樋口 要するに、栄養失調になったんですよ。その症状を自分で「中流性独居無精(ぶしょう)型栄養失調症」と名づけたんですけど(笑)。

何年か前から食事の内容が貧しくなっていることは自覚していたの。以前は講演会やら何やらで外食が多かったのが、85歳を過ぎてからは家にいることが増えてきて。今でも週のうち2日はシルバー人材センターの人が来て何人かで食事をしますけれど、それ以外のひとりで家にいる日は、何となくその辺にあるパンをつまんだり、牛乳を飲んだりで済ませてしまっている。

もちろん、中流ですから、冷蔵庫を開ければ、飲むヨーグルトやジュース、ハムや冷凍食品など一応、おなかを満たす食べものはたくさんあるのに、昔のように自然な空腹感がわかなくて。「いつまでもあると思うな空腹感」ですよ(笑)。

上野 あははは。

樋口 本当よ。83歳くらいまでは自然な空腹感があって、朝ベッドで横になっていても「ハラ減った、そろそろ起きてメシつくれ」と胃袋から指令されるの。頭が言うんじゃないのよ、胃袋。それでエッチラショと起きて、食事をつくっていたわけ。