デリバリーのお弁当を利用

上野 樋口さんは栄養失調になって調理定年を考えたわけですか?

樋口 それが一つのきっかけですね。もともと料理は家事の中で一番好きで、夫の没後もずっと台所に立っていたのに、84歳くらいからだんだん面倒くさくなってきたの。特に、建て替えが終わって新しい家で暮らすようになってからは、家財道具の整理を人任せにしていたから、料理器具の置き場所とかがわからなくて。

ここにあると思っていたお玉がない、スプーンがない、鍋がない。ないものが三つ重なると、もう調理欲がなくなるわけ。引っ越しをすると年寄りがボケるというのは、ある意味本当ね。で、低栄養状態になっちゃった。

上野 申し訳ないですが、それはおひとりさま歴が短いからです(笑)。

樋口 と思う。そういう訓練ができていないのね。おふたりさまかお三人さまをずーっとやってきて、特に二番目の夫は、早起きで料理がすごく上手になったものだから、毎朝ご飯をつくってくれて、「できたよー」という声で私と猫が起きて行くというふうだったから。夕食は私が中心でしたけれど。

上野 聞いているだけで羨ましいわ。そんな生活したことない! それで調理定年を迎えた後は? 今はデリなどの調理済み食品を利用してるんですか?

上野さん「わたしは今72歳ですけど、空腹感で起きたことなんて、もう何年もないですよ。」(2017年6月撮影。写真:本社写真部)

樋口 ひとりのときはお弁当をとってます。

上野 さぞかし美食家でいらしただろうに、お弁当で我慢できますか?

樋口 そこが戦争中の子どもの強みよ。梅干しも白いご飯もなかった飢えた時代に比べれば、七品も揃って白いご飯がついてくる、このありがたさはたまらない。

上野 わたしは、まずいものを食べるくらいなら何も食べないほうがマシだと思うほうです。