樋口「はい、私は完全にオヤジです。オヤジ型老後不適応症ですね」

樋口 だから、上野さんの世代は贅沢を知って育ったのよ。私たちは飢えのどん底を生き抜いてきたから、なんだって我慢できます。それでパンをかじって牛乳を飲んでしのいでいたら、具合が悪くなっちゃったんだけど。

低栄養になって目が回って倒れそうになったとき、病院で血液検査をしてもらったの。そうしたら、医者の顔色が変わって、「これは消化器系の重篤な病気以外に考えられない」と。それで84歳にして初めて胃カメラを飲んだわけ。実際には、がん細胞ひとつすら見つからなかったんですけどね。

上野 素晴らしい。それはよかったですね。

樋口 それでも、ほかに悪いところがあるに違いないから入院しろと言われたんです。ただ、その頃には自分の状態を「中流性独居無精型栄養失調症」と勝手に命名していたから、もう入院なんかいらないと断って帰ってきちゃった。

上野 樋口さん、それは独居の高齢男性の領域でございますよ。食べたものが自分の身になるということが、よくわかっておられない。食生活管理の基本のキができないオヤジが、独居生活を始めるとかかる病気ですね(笑)。

樋口 はい、私は完全にオヤジです。オヤジ型老後不適応症ですね。

※本稿は、『最期はひとり 80歳からの人生のやめどき』(マガジンハウス)の一部を再編集したものです。


最期はひとり 80歳からの人生のやめどき』(著:上野千鶴子・樋口恵子/マガジンハウス)

家族をやめてつきあいをやめて自分をおりて……
さいごは身ひとつで見果てぬ夢を見続ける。
これ、良き人生。