ごまかしがきかない世界ですね

そういえば、実は僕には大きなこだわりがあるんです。「五木ひろし」としてのデビューからでもすでに50年以上が経ってしまったわけですが、いまだに僕は自分の歌のキーを変えずに歌い続けています。これ、ちょっと自慢できることですよね。

五木ひろしデビュー当時(写真提供◎五木プロモーション)

だってね、最初に作曲家が作ってくれたキーというのは、考えに考え抜いてそのキーにしているわけですから、それを崩しちゃいけないんですよ。
僕は、キーを変えずに歌い続けたい。これができなくなったら、もう歌い続けられないかな。自分で作り上げたものを自分で壊したくないのです。

これがもし役者さんだったら、年齢によっていろいろな役柄があって、だんだん自分に合わせた役をやっていけばいいし、年を取れば取るほど違う味が出たり、脇に回ったりもできますよね。
でも、歌手は、どんな人も、その曲を歌う数分間は自分が主役なんです。ごまかしがきかない世界ですね。厳しいです。

だから、演歌の人たちが最初から元の歌のテンポを崩したり、自分なりの調子で歌っているのを見ると、これが演歌をダメにしてしまったんじゃないかと感じることもあります。まずは譜面通り歌うことが大切。キーを下げたりテンポを変えたりして譜面を崩してしまうと、別の曲になっちゃうんですよ。