ゲージを出てロビーに入ると、少し先に打ち終わっていた六花(りっか)が椅子に座って待っていた。
 笑顔で、軽く手をひらひらさせるので、応える。
「久しぶり」
「本当に」
 何度も思うが、十七年ぶりだ。
「大げさだけど、大人になったな」
 笑ってしまう。お互いに。
「あなたも。でも中年太りとかになってないのね。通っているから? ここに」
「まぁ、そうかな」
 運動は、ずっとしている。ここにもよく通っている。
 六花、と名前で呼びそうになって、塚原(つかはら)、と名字で呼ぼうと思って、いや三十五歳にもなっているんだから結婚していてもおかしくないんだ。結婚した女性が一人でバッティングセンターというのも何だが。
 薬指に指環はない。
「塚原、でいいのかな?」
 苦笑して頷(うなず)いた。
「塚原六花ですよ。いまだに」
 独身だったのか。離婚とかしているかもしれないが。
「何だってまたこんなところにいるんだ。よく来るのか?」
「初めてよ」
 初めてのバッティングセンターなのか。
「広めてほしくはないんだけれど、教え子の様子を見に来たの。アルバイトをしてるもんだから」
 教え子。そうだ、高校の先生になったんだった。
 バイトって。
「三四郎か?」
「知ってるの?」
 二人して、カウンターを見る。中で三四郎が何かの整理をしている。
「そうか、よく来るなら知ってるわよね」
「教え子って、蘭学の先生だったのか」
 そうよ、って頷く。
 いやまて。
 蘭学はバイト禁止で、三四郎は念のために帽子と黒縁(くろぶち)の伊達眼鏡(だてめがね)で雰囲気を変えているんだが。
 じゃあ。
「六花が三四郎の担任だったのか」
 塚原六花。
 高校時代に付き合って、別れた彼女。
 いろいろあって、担任の先生なら見逃してくれると三四郎は言っていたんだが、六花だったのか。いろいろあって、とは、何だ。