いや、その作品は、落ちた。
 残念ながら、審査員の先生方の好みには合わなかったらしい。
 それでも、なんか目処(めど)がついたみたいな気持ちになってさ。
 書いたよ。
 実は今も、最終選考に残っている。二回目だな。
 結果が出るのは、二週間後。
 まぁまた落ちたとしても、ちゃんとグラフィックデザインの仕事はしているから大丈夫。
 レギュラーの仕事はあるから。
〈ラモンズ〉あるだろ? そう、ファッションテナントビル。
 あそこのポスターとかパンフとか、俺の仕事。
 そう、二年前からね。
 コンペで通ったんだ。それで、一年ごとの契約だけれども、今年で三年目だ。それもあったから、余裕で独立できたんだよ。
 来年もあるかどうかはわからないけど、お蔭様でその他のクライアントもたくさんできたからね。
 当面、まぁ四、五年は大丈夫かな。
 その間に、小説の方でもデビューできればいいなっていう、取らぬ狸(たぬき)の皮算用してる。

 三四郎は、あそこでバイト始める前から知っていたよ。よく通っていたからね、中学の時も。
 腰を壊しちゃって、野球部辞めたってのも知っていたし。
 うん、バイトを始めた経緯も知ってる。
 大変なことだったよな。
 それで〈バイト・クラブ〉に呼んだんだ。
 聞いてないか? 〈バイト・クラブ〉。
 まぁあまり人に言うことでもないからな。いや別に怪しいものじゃないよ。知ってるだろ、じいちゃんがやっていた書道塾の話。
 そうそう、恵まれない境遇の若者集めていたってやつ。
 あれの、現代版。
〈カラオケdondon〉知ってるだろ。あそこをやってる筧(かけい)さんって、昔じいちゃんのところにいた人なんだ。
 それで、まぁいろいろ救われたみたいな感じになっていてさ。じいちゃんがやっていたことを引き継ぎたいみたいな感じで。