悪用を危惧したOpenAI
さらに2020年に発表され、GPT-2よりも大規模になったGPT-3は、1750億個のパラメータを持ち、OpenAIが所有する大規模な文章コーパスを使って事前学習されたモデルです。GPT-2まではなんとか1台のコンピュータに搭載できていましたが、GPT-3はあまりにも巨大なため一般のコンピュータにダウンロードできず、クラウドの向こう側にある巨大な計算クラスターで動くものになりました。
この頃、OpenAIは大きな方針変更をしました。開発した成果を「オープンにしない」というポリシーに変えたのです。OpenAIの研究者たちは、GPTが進歩すればするほど、悪用される危険性の方をより深刻にとらえるようになりました。
実際のところ、GPT-3くらいになると、出力された文章をひと目で人工的なものだと見分けることができません。これがスパムサイトの大量発生や、フェイクニュースの大量生産に使われることを危惧したわけです。
OpenAIはもともとイーロン・マスクなどからの出資によって作られた非営利組織ですが、マスクが出資を打ち切ったため資金的に行き詰まり、マイクロソフトから資金を得たのをきっかけに営利企業へと舵を切ります。
2023年3月に公開されたGPT-4は、テキストだけでなく画像さえも入力の対象とし、テキストを出力できる大規模なマルチモーダルモデルです。マルチモーダルとは、本来は違う種類(モード)のデータを一緒に扱うことを言います。さまざまな学術的テストで人間レベルの性能を発揮し、シミュレーションされた司法試験でも上位10%程度のスコアを達成しました。
※本稿は、『教養としての生成AI』(幻冬舎)の一部を再編集したものです。
『教養としての生成AI』(著:清水亮/幻冬舎)
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