2050年までにノーベル賞を受賞するAIを作る

ソニーグループ最高技術責任者の北野宏明さんは、人工知能分野で「グランドチャレンジ」と呼ばれる課題を解決することを目指しています。

このグランドチャレンジを一言で表せば、「2050年までにノーベル賞を受賞するAIを作る」でした。のちにノーベル委員会から「ノーベル賞は人に対してしか贈られない」という指摘を受け、「ノーベル委員会を欺いてノーベル賞を受賞するAIを作る」と修正されました。

北野さんは2018年にマカオで開かれた国際人工知能学会(IJCAI)のスピーチの中で、人類史上における科学の重要な発見は、ほとんど偶然か間違いによってのみ行われてきたと指摘しました。

というのも、生命科学の分野はAIの分野よりもさらに多くの論文が発表されていて、とても全て読むことなどできないという問題があったのです。

たとえば、メトホルミンという薬があります。糖尿病の治療薬として70年以上前から使われてきた、極めて安価で安全性の高い薬です。

それからかなり長い時間が経過して、つい最近、「糖尿病患者にはなぜか大腸がんの患者が少ない」ということが偶然わかりました。

そこで、メトホルミンが本当に大腸がんの抑制に有効なのかどうか実験を繰り返すと、実際に効果があることが2020年代に入ってようやく確かめられました。しかしこれは、もしも糖尿病の専門家と大腸がんの専門家がどちらの分野にも同じくらいに詳しかったら、すぐに見つかる類のものです。

※本稿は、『教養としての生成AI』(幻冬舎)の一部を再編集したものです。


教養としての生成AI』(著:清水亮/幻冬舎)

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