イメージ(写真提供:Photo AC)
高齢者が高齢者の親を介護する、いわゆる「老老介護」が今後ますます増えていくことが予想されます。子育てと違い、いつ終わるかわからず、看る側の気力・体力も衰えていくなかでの介護は、共倒れの可能性も。自らも前期高齢者である作家・森久美子さんが、現在直面している、94歳の父親の変化と介護の戸惑いについて、赤裸々につづるエッセイです。

前回〈94歳認知症の父が、食べることを嫌がり弱り始めた。入院させたいが、歩ける父は徘徊の恐れがあり拒否された〉はこちら

ケアマネージャーのまりあちゃんを待つ時間

父がデイサービスに行っていた日に、私は札幌市から車で2時間弱ほどの、美唄市で仕事をしていた。デイサービスの看護師さんから電話が来たのは、お昼過ぎだった。

普段は高血圧の投薬を受けている父が、最高血圧が60しかないというので、心配で気が気でない。父のその後の体調を気にしながら、夕方ようやく札幌の家に着いた。

父はデイサービスの人に送られて先に帰宅していたが、相変わらず食欲はなく、起きているのもきつそうな様子だ。前回(本欄の21回)は、そこまで書かせてもらった。

翌日、6月10日の夕方は、介護事業所のケアマネージャーの訪問が予定されていた。午前中のうちに私はケアマネ―ジャーに電話をかけた。

「今日お見えになる前に、お話しておきたいことがありまして…‥最近父は、すごく弱ってきました」

そう前置きしてから、食欲の低下が著しく、昼間もほとんどベッドでうつらうつらしていることと、前日デイサービスで体調を崩したことを伝えると、ケアマネージャーは驚いた様子だ。

「先月お会いした時は、5月の連休に遊びに来たひ孫さんの写真を見せてくれて、みんなでおそばを食べに行ったと、楽しそうに話してくれていたのに…‥まず、伺った時に状態を見させていただきますね」

私は昼過ぎから父のベッドの横で、父が興味のありそうな新聞記事を読んだり、私の仕事の近況報告をしたりした。午後の時間がゆるやかに流れていった。

ベッドから起き上がらない父に、ストローを使って冷たい麦茶を飲ませると、「ありがとう」と言ってくれた。素直な態度を取ってくれると、私も優しく接することができる。

「朝から顔を洗っていないでしょう? 温かいタオルで拭こうか? 今日ケアマネージャーさんが来るから、きれいにしなくちゃね」

父の目がキラッと輝いた。

「え? まりあちゃんが来るのか? じゃあ、顔を拭いてもらうかな。髭剃りも持って来てくれ」

入院した病院で楽しみにしていた夏祭りが開催された(写真提供◎森さん 以下すべて)