ジェーン・スーさんが『婦人公論』に連載中のエッセイを配信。今回は「モチベーションアップ」について。近年、さまざまな施策が日本企業で採用されるようになるも、「労働者が騙されているだけでは」とスーさんの警戒心と不信感は募っていたそうで――。(文=ジェーン・スー イラスト=川原瑞丸)
「モチベーションアップ施策」への警戒心と不信感
20年以上前のこと。外資系企業に転職した友人が、「今度の会社は、社員のモチベーションアップにどえらい予算を割いているんだよ」と含みのある顔で言った。社員に「この会社に勤めてよかった!」と思わせるようなイメージ動画の制作や、数々の「がんばったで賞」を授与するイベントを、派手にやっているのだという。
賞をもらえば昇給するのかと尋ねると、「そうじゃないから、恐ろしいんだよね」と友人はニヤリと笑った。大企業のあざとさを垣間見た気分になった。
部下のモチベーションアップ。管理職が頭を悩ませる問題だ。あからさまな不公平や悪事がまかり通っていたらやる気など出るわけないが、かといって雇用主や上司から一方的に授けられるとも思えない。なんか、うさん臭い。
私の「訝(いぶか)しがり」とは裏腹に、経営者主導のモチベーションアップ施策は、その後あっという間に日本企業でも採用された。経営者の甘言(かんげん)に労働者がうっすら騙されているだけではなかろうかと、私の警戒心と不信感は募っていった。