「僕は小学生の頃からみんなを笑わせるのが好きだった。修学旅行のバスの中で歌を歌ったりとかしてましたね。」(撮影:岡本隆史)
演劇の世界で時代を切り拓き、第一線を走り続ける名優たち。その人生に訪れた「3つの転機」とは――。半世紀にわたり彼らの仕事を見つめ、綴ってきた、エッセイストの関容子が聞く。第21回は俳優の笹野高史さん。淡路島の造り酒屋の末っ子として生まれた笹野さん。映画俳優になりたいと、上京。日大の演劇サークルに入ったそうですが――(撮影:岡本隆史)

「俳優?その顔で?」

六本木の自由劇場で観た『上海バンスキング』のかっこいいトランペット吹き、バクマツ(博打の松本)。コクーン歌舞伎『夏祭浪花鑑』では、意外にも極悪非道な舅、義平次。そして映画『武士の一分』の主思いの中間、徳平。これが私の選ぶ笹野3役で、どうやらこのあたりに役者人生の転機があるらしいと予想される。

(中村)勘三郎さんの楽屋でよく出会った笹野さんとの再会が嬉しい。

――僕も考えてきましたよ。第1の転機は中学の時に映画に出会った、ってことかな。いや、映画はもっと小さい時分から映画好きの母親と観に行ってましたけどね。生まれは瀬戸内海に浮かぶ淡路島。代々造り酒屋で、4人兄弟の末っ子でした。

僕が三つの時に親父が結核で死んで、母親もその病気が伝染して僕が小学5年の時に40歳で亡くなるんだけど、その母親が好んで観た映画はジェリー・ルイスとかボブ・ホープとかの喜劇が多かった。字幕の読めない子供でも一緒に笑えたのは、彼らの滑稽な動きとか表情とかがすごく面白いからなんですよね。

そのせいか僕は小学生の頃からみんなを笑わせるのが好きだった。修学旅行のバスの中で歌を歌ったりとかしてましたね。

中学生になって、日活の映画を一人でよく観に行ったけど、そうすると同じ人がいろんな映画に毎回違う役で登場する。ああ、これは俳優という職業なんだ!面白いなぁ、映画って、いろんな体験が出来て。よし、俺も俳優ってものになってやろう。これが12の時で、第1の転機ですね。