こんな大きい役のはずがない

そして第3の転機は、多数の映画賞を独り占めした『武士の一分』(2006年)に出演したことを措いてない。

――事務所にある日、台本が届いたんです。開くと最初に「監督山田洋次」。次にスタッフの名があって、出演者の1ページ目に主演の名前が出るんですが、そこに三村新之丞、その妻・加世、中間・徳平とあって、そこだけ笹野高史と出てる。僕の名前は大概後ろのほうにちょこっと出るんで、こんな大きい役のはずがない。そう思って確認してもらったら間違いないって。

これ、山田さん頭でもぶつけて何かおかしくなったに違いない、なんてね。役者は3分の1以上が運、というのがあって、俺は運のない役者だなぁ、と思っていたけど、やっとここで運が巡ってきた。家内も「よかったねぇお父さん、苦労した甲斐があったね」って。

そのうち、主演の2人が木村拓哉さんと檀れいさんに決まって、いよいよ撮影開始。「笹野さん、そこ開けて入って来て。ダメダメ。ワンシーンだけじゃないんだから。徳平は毎日ここへ通ってきてるわけだから。もっと長いスパンで役ってものを考えて」。すみません……。ワンシーンの出演が多かったもので……。

僕は足かけ4ヵ月、ずっと叱られてました。俺、今まで俳優として何やってたんだろう、とすっかり落ち込んでね。撮り終えて公開までが1年以上あったんで、絶対俺のせいで失敗したんだ、と思ったら身体の具合も悪くなっちゃった。

でも、公開されたら何だか評判がよくて、日本アカデミー賞やら何やらいろいろいただきました。アカデミー賞当日、会場で山田監督の横でご飯食べながら待ってたら、最優秀助演男優賞で名前を呼ばれて。その時、「おおー!よかった、ほら、早く行きなさい」って、監督が。