「死にゆくプロセス」を自分にあてはめてみた
鎌田さんの体調に異変が起きたのは2022年10月末。食後、胃が膨らみゴロゴロと音が鳴るようになった。いくつかの病院をまわり、胃カメラ検査を受けるも異常なし、腫瘍マーカー値も正常。大腸がんとわかったのは2ヵ月後の12月半ばだった。
――腹部CTスキャンで、大腸の一部である上行結腸の出発点にがんが見つかりました。その時点ではステージ2か3とのことで、今年1月に腹腔鏡手術で上行結腸を50センチ切除。術後、合併症のため1ヵ月間入院して、2月初旬にようやく退院しました。しかし翌週のPET検査で、肺に1つ、肝臓に7つ、リンパ節にも1つ転移が見つかって、ステージ4の大腸がんと告知されたのです。
ステージ4と聞いても、なぜか私の心は穏やか。キューブラー・ロスが提唱した「死にゆくプロセス」によると、死期が迫ることを知ったとき、人は「否認」「怒り」「取引」「抑うつ」「受容」を順にたどるとされますが、私の場合、一気に「受容」した感じです。否認も怒りもなく、湧き上がった感情は、ただ「感謝」でした。
なぜでしょうね。不調の原因がわかってスッキリしたこともあるでしょう。幼少期に死を間近に見てきたことや、若き日にバイク事故など命を落としてもおかしくない出来事に複数回遭遇しながら助かってきた経験もあって、「いま生きているだけで、ありがたい」と心底思っていたからかもしれません。
そもそも私は、病を敵と思っていないのです。がんは私のなかで生まれた私自身の一部。手術前は、「がん君、つらい思いさせてごめんね」などと謝ったり、切除するときは少し寂しかったほど(笑)。この一連の気持ちを、私は「複雑性感謝」と称しています。