省エネしない生き方

現在のパドヴァの家に移り住む前、一時期ベネチアで50件ほどの不動産を見たことがあります。ベネチアで暮らすにはとにかく体力を要します。交通手段が運河を行き来する船と自分の足だけなので、ここに暮らす人は皆自ずと体が鍛えられていくのです。不便であるくらいが長生きの秘訣となっているということでしょう。私たちは結局ベネチアの不便さへの不安と観光客の多さに辟易してパドヴァに家を見つけましたが、ベネチアで暮らしていたら精神力も体力も鍛えられていたかもしれません。

住民の10人に一人が100歳を超えると言われている、人口700人の南部イタリアのアッチャロリ村は、坂道だらけの不便極まりない場所にありますが、老人たちはそこで普通に暮らしています。別段自分たちが不便な場所にいるという意識はあっても、だから何? と言ったところでしょう。

こうしたことから見えてくるのは、心身どちらも省エネ的に楽をして生きようとすると、肉体的にも精神的にも結果的に老化を早めてしまうということです。

喧嘩も愚痴もエネルギーを要する表現ですが、平穏無事に波風立たさずに日々やり過ごすよりも、そういった感情を言語化しないと気が済まないというたちの人たちの方が、頭の健康を保ち続けられるんじゃ無いかと、イタリアをはじめとする諸外国の元気な老人たちを見ていると常々感じています。

※本稿は、『CARPE DIEM 今この瞬間を生きて』(エクスナレッジ)の一部を再編集したものです。


CARPE DIEM 今この瞬間を生きて』(著:ヤマザキマリ/エクスナレッジ)

幼少期から老人と触れ合い、親の介護、そして死を経験し、多種多様な「老いと死」に触れてきた真の国際人・ヤマザキマリが豊かな知見と考察をもとに語った、明るくて楽しい、前向きな人として生き方。