誰にも必ず訪れる「老い」「死」。実際、年齢を重ねるごとに、体に不調が現れたり、身近な人の死に触れたりと悩みや不安は尽きません。「寿命が何歳であろうと、その時までを思い切り生きていけばいい」と語るのは、漫画家・東京造形大学客員教授として活躍するヤマザキマリさん。マリさんは「老人は『老害』で結構」と言っていて――。
老人は「老害」で結構
なぜ日本では「老害」、つまり「老齢による弊害」という意識が生まれ、多用されるようになったのでしょうか。
昔から「老の戯言」という言葉は存在しましたが、自分のことばかりを話す、同じことを繰り返すといった行動は、直そうと思って直せるものではありません。
こうした加齢による面倒臭い現象を「老害」という言葉で括り、年長者に対し目くじらを立てたところで事態は変わらないので、それならいっそのこと諦観してうまく付き合っていった方が良いのではないかと思うほどです。
例えば落語の世界では、この老害がいつもいい塩梅の笑いのネタになっていますし、私も、夫の実家の老女二人のすっとこどっこいをギャグ漫画にしてしまいました。老人の不条理も、そうやって客観視してみると、なかなか味わい深かったりもするものなのです。
きっと近い未来、アルツハイマー病にも画期的な効果をもたらす薬が開発されるでしょうし、肉体の老化を抑える薬はすでに存在しているとも聞いています。
外側も内側も老化する人が減れば、それこそ「老害」という言葉が今ほど頻繁に使われることも無くなっていく可能性もあります。
とはいえ、それもまた自然の摂理への抗いともいえますから、そんな薬は使いたくないという人も出てくるでしょう。私も、いざそんな薬が手に入るとなったところで、すぐに手にするかどうかは分かりません。
今までの自分を振り返っても、散々いろんなことをやってきていますし、無理せず自分の寿命に忠実でありたいという思いも強いので、マリ婆さん人に迷惑かけまくって老害、と言われるであろう頻度が増えることも、今から覚悟しておきたいと思っております。