「よっぽど好きじゃないと続かない」という感覚
恥ずかしながら、昔は自分自身もまさにそういう感覚でした。僕の場合はもっと割のいい仕事を全部蹴って「好き」という理由だけで飲食の世界に飛び込んだという経緯もあり、好きを仕事にするというのはそういうことだ、という感覚しか無かったのです。
当時まだ20代、僕の意識の中には、バンドや演劇を続けるためにフリーターをしながら爪に火を灯すような生活を続ける、かつての仲間たちの姿がありました。ようやく自分も彼らのように、「好き」を最優先する人生が始まった、という達成感だけがありました。
我慢して好きでもない仕事をしている人々より条件が悪いのは当たり前、という大前提があったのです。
当時同じような飲食の仕事をしていた周りの同年代の面々も、概ねそういう感覚だったと思います。「よっぽど好きじゃないとこの仕事は続かないよね」というのは、仲間内で話をしていても定番の話題でした。
少し上の世代の人々は、また少し感覚が違うようにも感じていました。かつて料理人は、「手に職を付ければ食いっぱぐれない」仕事だったと言います。今は手に職を付けても簡単に食いっぱぐれる時代ですから、この感覚はほぼ絶滅していますね。
いずれにせよ、この「よっぽど好きじゃないと続かない」という感覚を持ち続けるのはかなり危険です。
僕自身はたまたま最初はそれで良かったけど、今になってその価値観を人に押し付けるのは害悪以外の何物でもありませんし、そもそももはやそういう時代ではありません。
だから飲食業界はどこも、待遇改善や労働時間短縮に取り組んでいるし、そうでないと業界に未来はありません。
そのためには機材やシステムの導入による効率化は必須です。その点においてはやはり大手チェーン店は常に一歩も二歩も先を行っており、我々などはそれを見て時に己の無力感に苛まれたりもします。
しかし元々がアナログな業界でもありますし、チェーン店と戦っていくにはそのアナログな部分を大事にしないと存在意義が失われるのも事実。そうなるとやはり最終的には値上げをしていかないと、何もかもがスムーズに回っていかないのが実情だと思います。