「手が早い」という評価

また少し昔話をします。

かつて料理人の世界では仲間内で「手が早い」と評価されるのは何よりの勲章でした。手が早い、というのはこの場合、仕事の速さを意味します。

欧米のようにちょっとしたランチが3000円、みたいなレベルが適正かどうかはわかりませんが、そこを目指していかないことには始まらないのです(写真提供:Photo AC)

単に動きが速いだけでなく、段取りのスムーズさや無駄の無さ、仕上がりの美しさなども含めた総合的な評価です。

僕は手先が不器用だし、手を動かすより先についつい頭で考えてしまうタイプでもあったので、決して手が早い方ではありませんでした。

しかし「手が遅い」と言われることは何よりの屈辱でしたし、遅いと怖い先輩にドヤされる。だから必死でした。そんな環境で揉まれているうちに、自分で言うのもなんですが、ある時から急激に早くなったと思います。

「今どきの若いもんは」的な老害の繰言めいていますが、最近はそういう風潮がだいぶ薄れているように感じます。そう感じるのは僕だけではないようで、同業者からも度々そういう話が聞かれます。

あるシェフは「今どき『もっと早く』なんて言ったら辞められちゃうし、下手したらパワハラで訴えられるよ」と冗談めかして笑っていました。