バクテリアの培養基としては極めて劣等のもの
又私の体は創をしても滅多に膿を持たず癒るのが頗る早いので、小さい創は何んの手当てもせず何時も其儘に投り放しで置きます。
つまり私の体は余り黴菌が繁殖せぬ体質と見えます。即ちバクテリアの培養基としては極めて劣等のものと想像します。
そして何んだか自分にも其様に信ずるので流行病のある時などでも電車中でマスクを掛けた事は絶てありません。
それから私は常に鼻で呼吸をしています。電車中でも隣の客が咳をしますと、其唾の飛沫を吸い込まぬ用心の為めに暫時、呼吸をする事を止めています。
※本稿は、『好きを生きる―天真らんまんに壁を乗り越えて』(興陽館)の一部を再編集したものです。
『好きを生きる―天真らんまんに壁を乗り越えて 』(著:牧野富太郎/興陽館)
2023年NHK朝ドラマ『らんまん』主人公、牧野富太郎の生き方。 珠玉の随筆集。 好きなことだけをして生きていく。 妻の死、実家の没落、借金、大学での待遇の不遇……。 いくつもの壁を乗り越えて、好きを貫いた生き方。 やりたいことだけすれば、 人生、仕事、健康、長寿、すべてがうまくいく。 体が弱くいじめられがちな少年だった牧野富太郎。 植物の魅力にとりつかれ才能を発揮してゆく。 「植物学」を独学で習得し、東京帝国大学植物学教室へ。 貧しさや困難に見舞われながらも 「草を褥に木の根を枕 花と恋して九十年」の言葉どおり、 ひたむきに植物を愛し、その魅力を伝えることに情熱をそそいだ生き方とは。