若竹 脚本と小説の違いはありますか?

内館 いまは違いがわかる(笑)。私は両方書いていますが、昔、橋田壽賀子先生のところに弟子みたいに通ってたの。そのとき「内館さん、絶対に出し惜しみしないで書くのよ」とおっしゃった。小説でも脚本でも、私の座右の銘です。

朝の連続テレビ小説や大河ドラマの脚本を書いていると、最終回までネタが持つか怖くなってくるんです。でも橋田先生は、「大丈夫。人間、行き詰まれば必ず道は開けるから」と。それを聞いた私は帰宅したとたん、すでに構成していた半年分をぜんぶ捨てて書き直しました。

若竹 なんと潔い!

内館 そして65歳のときに『終わった人』や『すぐ死ぬんだから』といった、高齢者が主人公の小説を何作か出しましたが、出し惜しみしないで高齢者の思いをどんどん書いた。自分が高齢になったからこそ書けた心理だと思っています。

若竹 そう思います。私、内館さんの『すぐ死ぬんだから』の文庫版のあとがきの依頼をいただいた際、78歳の女性主人公の生き方はカッコいいし、「老いることも成長のうちだと思います」と書いたんです。

私もいま69歳、体力は落ちるけど、「経験という実験とその結果」をたくさん持っているから、老いてからわかることがいっぱいある、って。

内館 確かに「老いることも成長のうち」だと思いますね。