拍子抜けするほど楽だった

あれから9ヵ月。ついに、埋まったのである。私の上顎にぽっかりと空いていた穴が! レントゲンを見て私は心底驚いた。忌々しくも黒々と写っていた空洞が、跡形もない。特別なことはなにもしていないのに、私はもう50歳なのに、骨は勝手に育った。人体は賢い。右の上顎に不要な穴が空いていると察知し、私が食べたものから勝手に骨を仕立てたのだから。

さあ、穴が埋まったら、次はビスの埋め込みである。ここからは自由診療。情け深い院長はディスカウントまでしてくれた。しかし、私は躊躇した。そこに歯がなくとも、生活にそれほど不便を感じなくなっていたからだ。

また、あれをやるのか。前回のビス埋め込みはつらかった。ゴリゴリと骨を削られる感覚は恐ろしく、なにしろ長時間かかった。苦い記憶が蘇り、私は尻込みした。

体調不良もあり、一度は手術をキャンセル。しかし、院長の厚意を裏切りたくない気持ちが勝り、再度予約を取った。

当日、院長は私の歯茎にチクッと麻酔を打ちながら、「今日一番痛いのは、いまの麻酔ですよ」と言った。気休めにもほどがある。しかし、それは真実だった。手術は20分ほどで終わり、拍子抜けするほど楽だった。院長の高い技術と、最先端の設備のおかげである。