しだいに気力が湧かなくなっていく

食べ物に関して好き嫌いを嘆く親もいた。しかし母から見ればそんなことは贅沢な悩みのうちだった。

「うちの勇ちゃんは、食物アレルギーで卵や牛乳が少しでも入っていたらダメ。それこそ命がけで食事をしている。その上、味覚が異常に過敏で度を越えた偏食。納豆とシュウマイしか食べない。好き嫌いなんてもんじゃないわ」

『発達障害に生まれて-自閉症児と母の17年』(著:松永正訓/中央公論新社)

また自分の子が描いた絵を自慢する親もいた。いや、自慢ではなく単に事実を伝えただけなのかもしれないが、母にはそれが自慢に感じられた。勇ちゃんはまともにお絵かきができなかった。

ママ友との会話はつらいものに変化していった。週に2回療育へ行くときだけが心が解放される時間だった。健常児のママの存在も、健常児の存在も母にはうっとうしいものでしかなかった。

抗うつ剤は効果がなかった。母の気分は沈み、憂うつな時間が長くなり、何かのきっかけですぐに涙が流れた。しだいに気力が湧かなくなっていくことが自分ではっきりと分かった。