玄関にうずくまる

朝8時に勇ちゃんを保育園に置いてくる。玄関で勇ちゃんを保育士に預ける。夕方5時に迎えに行くと、勇ちゃんは玄関にうずくまっていた。

担任の保育士から、「今日も保育室に入れず朝からずっとここにいます」と言われた。その言葉に母は凍りつく思いだった。

母は勇ちゃんのお迎えの時間がしだいに苦痛になっていった(写真提供:Photo AC)

この頃、母は幼児教室で幼い子どもたちに指導する仕事をしていた。自分が会社に行っていろいろな人に会い、または仕事の関係で多くの訪問先で人と会話し、そしてランチを食べて、変化のある一日を過ごしている。ところが息子は朝からずっとここにいる。

なんて不憫(ふびん)なんだろうか。そう思うと母は胸が締めつけられる思いだった。仕事に出かけるのは気分転換にならなかった。園での勇ちゃんの様子がどうしても気になった。

保育園にはライブカメラが設置されていた。無線で保護者のパソコンに園内の様子が映し出され、カメラの向きも遠隔操作できる最新システムを取っていた。母はこのライブカメラを見ることにした。仕事の合間に何度も画面に目をやった。

するとあるときは、やはり一日中玄関で勇ちゃんはうずくまっていた。またあるときは、保育室に入ってもほかの子と交わっていなかった。

みんなが整列して歌を歌っていても、勇ちゃんは寝そべって絵本を広げていた。また、みんなが椅子に座って担任の話を聞いているときに、勇ちゃんは部屋の中を歩き回っていた。