この一瞬のために永遠を捨てても構わない

さて話は逸れるが、双方共に郁代さんぐらいの年齢で恋愛中のカップルがいる。互いに独り身。それぞれの家を行き来し、食事に出掛けたり、時には旅行したりと、後半の人生を楽しんでいる。互いの家族も受け入れているという。

女性はこう言っている。

「もう嫁も妻も母親も卒業したんだもの、籍も入れないし同居もしない。一緒に暮らせばいろいろ摩擦があるのはわかっている。もう命の限りも見えているんだし、喧嘩なんかに時間を使うのはもったいないじゃない。本来、恋愛は楽しむもの。人生の総仕上げを目前にして、ようやく本当の恋愛ができている気がする」

好きという気持ちだけでいい、他に何もいらない。

恋愛とは、この一瞬のために永遠を捨てても構わない、と思えること。

そう思えるのは、老いてからの恋しかないのかもしれない。

 

※本稿は、『男と女:恋愛の落とし前』(新潮社)の一部を再編集したものです。


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