稲垣先生曰く「かつてセイダカアワダチソウが花粉症の原因と騒がれたことがあったが、そうでないことを我々は知っていた」だそうで――。(写真提供:Photo AC 以下全て)
朝ドラ『らんまん』では、日本植物分類学の基礎を築いた一人・牧野富太郎博士をモデルとした主人公、牧野万太郎が日本各地で植物を採取し、植物図鑑を完成させるまでの生涯が描かれました。ドラマ内では「雑草という草はない」という名言も飛び出しましたが、植物学者として、むしろ“雑草戦略”で生き抜いてきたのが静岡大学教授で作家、「みちくさ研究家」の稲垣栄洋先生です。稲垣先生曰く「かつてセイダカアワダチソウが花粉症の原因と騒がれたことがあったが、そうでないことを我々は知っていた」だそうで――。

裸子植物と被子植物

花粉症の原因として有名な植物として、スギとヒノキがある。

スギとヒノキは教科書では「裸子植物」と呼ばれる植物だ。裸子植物は、植物の進化の過程では、古いタイプとされる植物である。そのため、花粉を風で飛ばすという原始的な方法に頼っている。

しかし、そんな風まかせで、花から花へと花粉が運ばれる可能性は高くない。そのため、裸子植物は、大量の花粉をばらまく。そして、ばらまかれた花粉が、あちらこちらに飛散して、私たちを悩ませるのだ。

裸子植物から進化を遂げたのが、「被子植物」である。

被子植物は、虫に花粉を運ばせるという画期的な方法を編み出した。

花から花へと虫が花粉を運んでくれるので、確実に花粉が運ばれる。そのため、必要以上にたくさんの花粉を作らなくても良くなったのである。

ただし、虫が訪れなければ花粉を運ぶことができない。そのため、被子植物は、色とりどりの美しい花びらで花を飾り、競い合って虫を呼び寄せるようになった。

風で花粉を運ぶスギやヒノキには美しい花びらはなく、まるで目立たない。

私たちの身の回りに咲き誇る、美しい花々は、どれも進化した被子植物なのだ。そのため、美しく咲く花は、花粉をばらまくこともないし、花粉症の原因になることもない。

『雑草学のセンセイは「みちくさ研究家」』(著:稲垣栄洋/中央公論新社)